◎緊急提言:パンデミック(ユヴァル・ノア・ハラリ)
◎歴史家ハラリを読み続ける
*ハラリの『緊急提言 パンデミック』(河出書房新社)
同書序文一部紹介。
<私は歴史学者なので、医学的な助言はできないし、未来を予測することもできない。だが、歴史的な視点なら、少しばかり提供できる。感染症は農業革命以来、人間の歴史で中心的な役割を演じてきた。そして、しばしば経済危機や政治危機につながった。これまでの感染症と同じで、COVI-19に関しても、けっして忘れてはならないことがある。それは、ウイルスが歴史の行方を決めることはない。それを決めるのは人間である、ということだ。人間はウイルスより圧倒的に強力であり、この危機にどう対応するかを決めるのは、私たちなのだ。ポストコロナの世界のあり方は、今私たちが下すさまざまな決定にかかっている。/私たちが直面している最大の危険はウイルスではなく、人類が内に抱えた魔物たち、すなわち、憎悪と強欲と無知だ。私たちは今回の危機に臨んで、憎しみを燃え上がらせることもできる。たとえば、この感染症を外国人や少数派のせいすることによって。あるいは、強欲を募らせるという反応の仕方もありうる。たとえば、この機に乗じて利益を増大させようとする大企業があるかもしれない。このような反応をしたら現下、の危機に対処するのがはるかに難しくなるだろうし、ポストコロナの世界は、分裂して、暴力があふれる貧しいものとなるだろう。/だが、憎悪や強欲や無知を生み出すような反応を見せる必要はない。思いやりや気前の良さや叡智を生み出すような反応もとりうる。陰謀論ではなく科学を信じるという選択をすることもできる。/今後の月日に、私たちが賢明で思いやりに満ちた決定を次々に下していくことを、そして、この危機からより良い世界を生み出せることを、心から願っている。>
コメント数:0 コメント
◎『緊急提言 パンデミック』を読む
ユヴァル・ノア・ハラリの本。一応読む。
気に入った部分勝手に紹介する。
(p51)<アメリカという空白>
2008年の金融危機や2014年のエボラ出血熱の大流行といった、これまでのグローバル危機では、アメリカがグローバルなリーダーの役割を担った。だが、現在のアメリカ政権は、リーダの仕事を放棄した。そして、人類の将来よりもアメリカの偉大さのほうをはるかに重視していることを、明確に示してきた。/この政権は、最も親密な盟友たちさえも見捨てた。EUからの入国を完全に禁止したときには、EUに事前通告さえしなかった。そして、伝えられるところによれば、新しいCOVID-19ワクチンの独占権を買い取るために、あるドイツの製薬会社に10億ドルという金額を提示したことで、ドイツを呆れ返らせた。アメリカが残した空白を埋める国が出てこなければ、今回の感染症の大流行に歯止めをかけるのがなおさら難しくなるばかりか、その負の遺産が、今後長い年月にわたって国際関係を毒し続けるだろう。とはいうものの、危機は、好機でもある。グローバルな不和がもたらす深刻な危機に人類が気づく上で、現在の大流行が助けになることを、私たちは願わずにはいられない。
◎ポストコロナ雑考①
姜尚中さんの意見を紹介しよう。西日本新聞(10月9日)「文化」<近況往来>(平原奈央子さん)より借用。「ポスト・コロナを思索する政治学者」姜さんはコロナ禍の現状を「国や社会はどうあるべきかリトマス紙にかけられている」とし、格差や差別の拡大を注視する。「不信と分断、対立と不安という人間が作り出すウイルスも徘徊」「自粛警察」とも呼ばれる国民同士の監視。姜さんは、今、大切なのは「自由」と見ている。姜さんは言う。「私たちは、社会の力と国家のバランスの上に初めて自由を満喫できる」。社会の力とは衆知を集めた真摯で自発的な営為のことと言う。権力の寡占状態が進んだ安倍政権下で国家に対するこの力は弱まった、と見る。コロナ禍で再び世界中で読まれるようになったカミユの小説「ペスト」に触れ、この小説に描かれたような一人一人の市民の「誠実さ」が社会の力となり、疫病に対抗する最大の武器になると強調したという。(ここで、私は筆を置く。早速県立図書館にカミユの「ペスト」を予約した。結論はこれを読んだ後にする。)
◎『イギリスにおける奴隷貿易と奴隷制の廃止』(読書ノート)
*正式タイトル:布留川正博著『イギリスにおける奴隷貿易と奴隷制の廃止 環大西洋のなかで』同志社大学経済学研究叢書9(有斐閣2020/03)
序章 研究史の整理と本書の構成
第1章 「産業革命」期における英領西インド植民地の経済
第2章 奴隷貿易廃止運動の展開と議会での論戦
第3章 アボリショニズムとシエラ・レオネ植民地
第4章 シエラ・レオネ植民地における解放アフリカ人
第5章 19世紀前半ブラジルの奴隷貿易とその廃止
第6章 反奴隷制協会の結成と奴隷制廃止ー漸進的廃止から即時廃止へ
第7章 年期奉公人制の廃止ー1834-38年
第8章 西インドの奴隷とイギリスの労働者ーアボリショニズムとチャーティズム